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2023年(令和5年)4月5日号 元町コラム
横浜開港200年 / Y200(2059年)を夢みて!

【特集】心安らかに人生を見つめ直す旅への誘(izana)い〜(6)

話す言葉が風になり、歌になって飛び立つような新緑のパリ。

     元町百段公園から古(inishie)の横浜を眺める気持ちで、パリのモンマルトルの丘に佇み、春に霞む古都の遠景を堪能しようと試みる時、最初に目に映り込むものは、そこに立つ若き日の希望に満ち溢れていた自らの肖像かも知れません。

     そんな、夏を前にしたパリ行きの目的は「芸術の都」と言われているパリの本質を探しに出かける旅。 モンマルトルの丘、サクレクール寺院の広くて長い階段の真ん中に腰を下ろし、眼下に広がるパリの街を見渡すだけで絵心がくすぐられて参ります。 芸術とまでは言わなくても、誰もが持っている美的感覚を覚醒させてくれる力がこの街には漲(minagi)っている事が実感できる瞬間でもあります。

     パリの街なかで見つけた小さくてお洒落なレストランに飛び込んでのランチにも芸術を学ぶヒントが隠されているかも知れません。 料理が出てくるのが遅くて、チーズがとても塩からかくても、芸術の勉強と思えば全て納得。 「いつもと違う。 日本じゃなかった、、ここはパリだったんだ」と、モンマルトルの丘がそう再認識させてくれるから不思議です。

※ パリの7つの丘の中で一番高いモンマルトルの頂上に建つサクレクール寺院はキリストに捧げられた教会堂だ。 古き良き時代の雰囲気を残すモンマルトルは映画や絵画の舞台となったカフェが多く点在し、画家たちが集まる広場。 パリ一番の好感度スポットだーーー。

※ 1974年、、50年前の若き日の筆者。 毎週末、勤務地、オランダのアムステルダムからベルギーを素通りし、パリ北駅に降り立ってショートステイのパリを楽しんだ。 ひと括りの大きな時間は流れ去ったが、サクレクール寺院が、今日もあの日のままにパリの街を見守っているーーー。

     モンマルトルのレトロなホテルを選んで2週間、のんびりと滞在すれば、彫刻が施された橋梁の隅々まで眺める事が出来るし、建物の上に立ち並ぶ聖人たちの彫刻にもひとりひとり挨拶をする余裕が生まれる筈。 そんなゆとりの中にこそ、パリの本質、芸術を理解する心が潜んでいるような気が致します。

     そう言えば、昔、メトロの「パレ・ロワイヤル」駅を上がったところに、日本人オーナーが営む美味しい「ラーメン亭」があって、日本から訪れた有名人のサイン色紙が壁いっぱいに飾られていたことを思い出しました。 その店の探索に出かけるのも一考ですが、昨今は日本仕込みのフランス人が経営する美味しい本格的なラーメン店も多く、お客は雑誌から抜け出したような若いパリジャンと可愛いマドモアゼルのカップルばかり。

     その二人が日本の老舗店と同じように、カウンターや相席のテーブルで肩を寄せ合うように仲良く美味しそうに食べている姿は、ラーメンがパリに根付いた食文化としてお洒落に見えます。 店内を見渡すと、スタッフに日本人はゼロ。 手際よくラーメンの湯切りをしているスタッフがアラン・ドロン(Alain Delon, 1935年 11月8日〜 )やジャン・ポール・ ベルモンド(Jean-Paul Belmondo、1933年4月9日〜 )の若い日を彷彿とさせてくれるお兄さん達ですから見ているだけで楽しくなります。

     まさにパリのネイティブのためのラーメン店ですから、ヌーベル・キュイジーヌ(nouvelle cuisine / 新感覚のフランス料理)、、。 完全にパリに根付いたラーメン文化がフランス料理の1部の様に同化しています。 なので、長期滞在中に日本が恋しくなってラーメン店を探して探して飛び込んだのは昔のはなし、パリを満喫する第1歩として、パリの若い皆とフランス語だけしか聞こえないラーメン店の暖簾(no-ren)をくぐり、パリを満喫する準備を整えるのも一考です。

     その後に訪れるお洒落な老舗百貨店、ギャラリー・ラファイエット(Galeries Lafayette)でのショッピングも、テラスに広く張り出たカフェも、以前は気おくれして肩身が狭く感じられたエリアが、今はもう自分のフィールドのような感じがして来る筈です。 身構えながら乗り込んだセーヌ川のクルージングも、もう、♪〜春の♪うららのスミダガワ〜♪ のような気楽なクルージングになることでしょう。

※ モンマルトルの丘から一望のパリの街。 築100年以上の建物がひしめき合い独特の風情を醸し出している。 セーヌ川を中心に左岸・右岸に広がるその街並みは絵のように美しく、古き良き風情と最新のモダンニズムの融合が素晴らしいーーー。

     思えば、パリに本店を置く有名百貨店「プランタン(AU PRINTEMPS)」は日本でも4号店が銀座にオープンして有名でしたし、「春」を意味するプランタンの名称は私たちにも覚えやすい名前でした。 確か、1号店が神戸三宮、そして、札幌、大阪難波に次いで銀座店が4号店としてオープンしたのが1983年でしたが、残念な事に2016年(平成28年)12月31日に閉店し、日本国内から「プランタン」の名を掲げる店舗が姿を消した事は寂しい限りですが、化粧品売り場が大人気で、パリの風情そのものだった事を覚えています。

     豊かな気持ちで「ロアールの城めぐり」を楽しみ、仲良しと二人でベルサイユ宮殿にメトロで通い、宮殿には入らずにプチトリアノンまでのなが~い道を、フランスの皆が自転車で行くのを横目で眺めながら1時間ほどをかけて歩けば、その分、フランスが身体に染み込んで来る事が判ります。

     これでもう、印象派の美術館「オルセー美術館」に行くのに、パリの居住者を意識して誰も歩いていない砂利道を行っても、日本からのおのぼりさんの誰かさんのように、途中にあるルーブル美術館に間違って入る事も無くなる事でしょう。

※ モンマルトルにはお洒落な老舗カフェが軒を連ねている。 そこではゴッホやモネ、ロートレックの息吹を確実に感ずる事が出来るーーー。

     パリの名物、突然の「通り雨」に出会ったら、お気に入りの肩掛けのひもが付いた長傘を開いて、「どうぞ」と言って招き入れましょう。 そして、一番の地元感を味わうにはホテルの美容室でのヘアカットがベスト。 是非、思い切ってバッサリとカットしたショートでボーイッシュに、。 ブローは前髪からリーゼント風にお願いしてオールバックで決まりです。

     日本に戻り、パリ帰りを意識して颯爽と元町ストリートの春の石畳を歩く頃は、パリのテイストが全身にみなぎり、赤い袋から顔をのぞかせているポンパドウルのフランスパンをつまみ食いしながら歩けば、いつも聴こえる元町チャーミー本店のカリオンの鐘が、遠く、モンマルトルの丘から鳴り響いて来るサクレクール寺院の鐘の音に聞こえて、あなたは、もう、本物のパリからの異邦人。

     事務局にお願いして、今週はストリートのBGMにシャンソン・インストルメンタルをセットして貰う事に致しましょう。

Tommy T. Ishiyama

   

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