2024年(令和6年)7月5日号 元町コラム
横浜開港200年 / Y200(2059年)を夢みて!
モトマチのフェニックス 〜不死鳥の翼に乗って〜(13)
〜 大自然の真っ只中で深呼吸をする大切さ 〜
ドイツ、バイエルン(Bayern / 現代ドイツ語の発音ではバイアン)は、今、森と水の癒しを求める世界中の人々の大注目の季節を迎えています。
最大の面積を有するバイエルン州の首都はミュンヘンですが、スイス、チェコ及びオーストリアとの国境に位置して、南部はアルプス山脈の山岳地帯を有し、冬はスキーリゾート、夏は避暑地として多くの観光客が訪れて、中でも、ドイツアルプスにある「メディテーション・トレイル」(Meditation Trail)は穏やかな自然を感じながら、のんびりと森と水に癒されるウォーキングを楽しめる絶好のエリアとして有名です。
「メディテーション」とは「瞑想」とか「思いに浸り切ること」。 「トレイル」とは人々が歩いて移動していた時代に使われていた歩行者専用の道や、行楽のために整備された道路を意味しますが、大自然の森林や原野の中を自分と向き合いながら歩く大切さは、ひたすら頂上を目指す登山とは一線を画して、ゴールを決めずに大自然を全身に感じながら歩くという、いわゆる、この「メディテーション・トレイル」こそが現代人が求める癒しに他ならない事を物語っています。
※ リンダーホフ城が圧倒的な存在感で佇んでいる。 ドイツ、バイエルン州南西部のオーバーアマガウ近くに位置するこの城はリンダーホーフ宮殿とも呼ばれ、バイエルン王・ルートヴィヒ2世が建設した3つの城のうち、唯一完成した城であり、1874年に建築が開始されたと歴史書にあるーーー。
いつの時代も豊かな森をはぐくむドイツ南部のバイエルン州は、広く一般に開放されている一方で自然環境の保護活動も盛んです。
このメディテーション・トレイルのコースが設定されているのがドイツ最大級の森や幻想的な湿原地帯、そして、巨大なバロック建築で有名な「エッタール修道院」(Kloster Ettal / ドイツのローマ皇帝でもあったバイエルンの公爵ルートヴィヒが1330年に建立)や「リンダーホフ城」(Schloss Linderhof)などの文化遺産が多様な景色が綾なす「アマガウ・アルプス自然公園」です。
※ 7月の声を聞いたばかりなのに、バイエルン州は早くも夏の終わりの風情が漂い出した。 絵のような美しさ、秋が急ぎ足で歩み寄っている今日のメディテーショントレイル周辺の素晴らしい風情に思わず涙がーーー。
全長85kmに及ぶコースには大自然のオゾンが満杯です。 その中でストレスを発散する秘伝は、森の中を歩む過程で、まず、足の真裏から土と草を経由して大地の感触・地球の鼓動を感じながら歩くこと。 山々や木々に囲まれながら大地の息吹を感ずれば、自分が大自然の一部である事が実感できて気持ちが解放される結果、大自然からのメッセージを受信する感度が抜群に上がる事は必至で、これまでの不安、悩み、といったものが、いかに小さく意味のないものだったかがはっきりと判る瞬間でもあります。
大きな泉に辿り着き、流れる川面に目を凝らすと引き込まれそうな透明度の中、深い底から清らかな水が湧き出ている証拠に、細かい酸素の泡が立ち昇っているのが判ります。 今、佇んでいるこの場所こそ、近くを流れる「クライネ・アンマー川」(Kleine Amber)の源流で、ここから更に「グロッセ・アンマー川」(Große Ammer)に合流して、ドイツを縦断し、北の北海へと進路を取る重要拠点ですので、清らかに湧き出る水が如何に神聖なものかは容易に判断することができます。
森の空気も冷んやりと優しく包み込んでくれる様に感ずるのは、このエリアがかつては氷河の真っ只中にあって、元来、湿度がしっとりと高い事に由来しているからですが、そんな大自然に育まれてもうひとつ存在するのがバイエルンが誇る郷土料理の数々です。 シュヴァイネハクセ (骨付きの豚のすね肉)、ヴァイスヴルスト (白ソーセージ)、シュヴァイネブラーテン (伝統的なローストポーク) といったさまざまな逸品が癒しの総仕上げのように控えています。
日本も、横浜も、、本格的な夏を今年も元気に迎えています。 四季によって刻々と変わる景色の中に静かに身を委ねる事は大切です。 バイエルンの四季を想いながら、あの日眺めた深い川底が見渡せる程の透明度の中で泳ぐ魚影を想い、のんびりと羽を休めている鴨を想い出して平和で長閑な環境の中に生きている自分自身を見つめ直しましょう。
心が癒され、充分な休息を得られる瞬間、それは、穏やかな時の流れの中に身を委ね、鳥や風の音を優しく聴きながらゆっくりとトレイルを行く1歩を進む時。 大自然が優しく迎え入れてくれるような実感は、何より、今はもう逢えなくなってしまった愛しい家族、友人、恩師、親族、そして一緒に暮らし、野山を駆け回った最愛のペット達も含めた皆が、そっと寄り添ってくれて、手を差し伸ばしてくれているように感ずる瞬間でもあります。
大自然に真正面から向き合い、身を委ねた時、感動の涙が溢れるのは、きっと、そんな皆んなに再び逢えた様な気がするからなのかも知れません。
Tommy T. Ishiyama