2023年(令和5年)5月5日号 元町コラム
横浜開港200年 / Y200(2059年)を夢みて!
【特集】心安らかに人生を見つめ直す旅への誘(izana)い〜(8)
季節の花々がご来街の皆さまをお迎えするように今日も元町ショッピングストリートで華やかに輝いています。
※ 季節を飾る花壇。 元町ショッピングストリート全域に配置されている。 丁寧に植え込みされた花々を元町散策のお楽しみに是非ーーー。
5月の晴れ渡った青空の中へ吸い込まれるように咲き誇る花々。 今でこそ国籍が不明な程に改良に改良を重ねた花がそれぞれの国々で美しく開花していますが、それらの多くの植物はプラントハンター達によって発見され、自国に持ち込まれたものも多く、欧州各国の中でも特にプラントハントが盛んだった国はイギリスとオランダでした。
大英帝国がプラントハンティングの担い手となったのは18世紀のこと。 世界中から動植物を収集した公的機関によって、ロンドン南西部の都市「キュー」に王立植物園として「キューガーデン」(Kew Gardens)が設立されるに至るわけですが、多くの民間企業もしのぎを削って、プラントハンター達を日本を始めアジアや中南米の諸国へ派遣した時代が続きました。
記録によれば、来日したペリーの黒船にも2名のプラントハンターが同船して日本での植物採取を敢行したほか、オランダ医として長崎に滞在していた「シーボルト」(Philipp Franz Balthasar von Siebold / 1796年2月17日 - 1866年10月18日)も江戸参勤の折に、各地での測量に加えて多くの植物を採取していた事が明らかになっています。
加えて、専業のプラントハンター以外にも、イギリスの自然科学者だった「チャールズ・ダーウィン」(Charles Robert Darwin / 1809年2月12日 - 1882年4月19日)のように調査航海に同行した生物学者や船医が現地で植物を収集することも多々ありました。
※ 人気のスーパー「元町ユニオン」の店頭スタンドには美しい季節の花が今日も満載。 皆さまのご来店を華やかに待っているーーー。
歴史を遡ると、世界で最初に貴重な異国の植物を集める旅を実施したのは紀元前15世紀のファラオ、「ハトシェプスト女王」(Hatshepsut / エジプト第18王朝王妃 / 在位:紀元前1479年頃 - 紀元前1458年頃)で、主目的の香料の探索の折に多くの鉢植えがもたらされたわけですが、中世の後期、セイヨウトチノキやチューリップが東洋からヨーロッパに持ち込まれると、その人気と品種の希少性から16世紀のオランダ、アムステルダムではチューリップ・バブルと呼ばれる異常投機熱が高まりました。
17世紀の中頃になると地球上のほぼ全ての地域にヨーロッパ人の来訪を見るに至り、やがて、大航海時代の終わりと共に植民地時代が始まり、第二次世界大戦頃にはヨーロッパと日本を除くほぼ全ての地域がヨーロッパ列強の植民地、あるいは支配下となって本国に莫大な利益をもたらしたのです。
※ もうすぐ「母の日」。 今年も満開の花を咲かせた拙宅の庭先からプリンセス・ド・モナコの一輪を飾って、感謝の意を表する季節の訪れを祝いたいーーー。
※ 同じ花でも、、こちらの瓶の意匠の華やかさと芳醇なテイストは1日の締めくくりにピッタリ。 ある日の元町入り口至近、馴染みのバールでの立ち飲みが心地良い季節になったーーー。(Photo by Fujiko Takayama)
新しく発見された地域には冒険家、宣教師とともに植物採集のためのプラントハンターが多く訪れ、種々の香辛料をはじめ、食料や薬草などを持ち帰りました。 また、その中には珍しい花や木も含まれていた事は言うまでもありませんが、日本はその当時、鎖国中だった為に自由に植物を持ち出すことはできませんでした。
やがて、前述の「シーボルト」(ドイツ人医師で博物学者のフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト)とその前任者で植物分類の基礎を作った「カール・フォン・リンネ」(スウェーデン人の植物学者)の弟子の「カール・ツンベルク」(スウェーデン人の植物学者、博物学者、医学者)などによって多くの日本植物がヨーロッパに紹介され、鎖国が解除された後は園芸品種を含むさまざまな植物がヨーロッパを席巻した結果、日本の園芸文化のレベル高さを知った当時の人々の大きな驚きとなったのです。
プラントハンターを世界中に派遣した英国は、彼らによって多くの植物が持ち込まれ、もともと自生の植物が少なかった英国に園芸文化が深く根付いたわけですが、そのひとつの大きな成果が1861年の「王立園芸協会」(The Royal Horticultural Society)の設立でした。
世界中からもたらされた植物を一カ所に集め、その分類を意図して作られた王立の植物園が「キューガーデン」(Royal Botanic Gardens, Kew)で、植物の庭でのノウハウなどの全対応は「ウィズレーガーデン」(Wisley Garden)というように、英国を代表する2つの庭園はイギリスの園芸文化を底辺で支える両輪となってガーデニングの聖地としてのプライドを現代に引き継いでいます。
Tommy T. Ishiyama