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2024年(令和6年)420日号 元町コラム 

横浜開港200 / Y2002059年)を夢みて!

 

モトマチのフェニックス 〜不死鳥の翼に乗って〜(8

 

 〜 人生で出会う涙の日々は素敵です 

 

 MLB、サッカー、ラグビー、そして、高校野球など、TV中継を通じて熱烈な応援を送るスポーツ全般もそうですが、入手が極めて困難なプラチナチケットを手に参加した有名アーティストのライブステージなど。 人生には、瞼に蓄えた感動の涙が、ハートの形になって頬を伝うような瞬間が多く存在しています。

 

 旅の道すがら、思わず眺めた美しい景色や、人生の大切な想い出に触れた瞬間もそう、そして、劇場映画にTVドラマ、抱腹絶倒の爆笑コントを楽しんだ時も大笑いの涙が。 涙はいろいろなシーンで形を変えて登場してくれます。

 

 そんな熱い感動の涙とは趣を変えて、「じわーっ」とした情感が時間の経過と共に積み重ねられてゆき、まるで能や歌舞伎を鑑賞している時のように「序破急」(Jyo-Ha-Kyu : さまざまな芸能における「三部構成」の理念)に見事に操られたような、余韻と共に押し寄せて来る感動が最後に堰を切ったように溢れ出る瞬間も大切なシチュエーションのひとつに違いありません。

※ 春の曙、、、、日本の日の出ーーー。

 ここに「最後の宮大工」と称されている文化財保存技術者(親しみを込めた通称として「伝統の名匠」の名が別途存在)として西岡常一(Nishioka Tsunekazu / 1908年・明治41年9月4日〜1995年・平成7年4月11日)氏がいます。

 氏は、世界中からの観光客を魅了し続けている世界最古の木造建築物、「法隆寺金堂」の昭和大修理や「薬師寺金堂」ならびに「西塔」の再建を成した人として知られていますが、世界最古の芸術的建造物を解体しながら、1300年という時間の中で名も知らない歴代の棟梁たちが携わって来たこれまでの修理の細部を検分しつつ、自らも古来の形式を踏襲し、新たな息吹を吹き込んで来た苦心と工夫の足跡を次のように振り返っています。

 「建造物に多く残されてゆく新たな工夫は、自分の作でありながら、決して自分の物ではない。 過去と未来を繋いでゆく仕事に、自分という者は一切存在しないからだ」と。

 奈良県生駒郡斑鳩町出身の西岡氏の幼少期は、法隆寺の宮大工の棟梁であった祖父や父の関係から、管主・佐伯定胤(Saeki Jyoin)師に可愛いがられたものの、祖父からは棟梁となるべく厳しい指導を受け、斑鳩尋常高等小学校3年生の夏休みを期に現場に駆り出されます。 その為、村の仲間たちが絶好の遊び場として野球をしていた同じ法隆寺の境内を仕事場から眺めて『どうして自分だけ大工をせんならんのやろ』と恨めしく思っていたと述懐しています。

※ 構造物、建造物が織りなす景色は大自然にも似た存在感で私たちを出迎えてくれるーーー。

 種々の実績を確実に積み重ねてゆく過程で、戦争による招集によって機関銃部隊に配属され、中国長江流域の警備任務に着任した際には、軍務の傍ら、中国の建築様式検分に勤(iso)しみ、除隊後も2度に渡る満州と朝鮮への応召や陸軍衛生軍曹として終戦を迎えるまでの間も、戦中期の法隆寺金堂の解体修理を続行していたのです。

 戦後は、さすがに法隆寺の工事は中断され、貧困と病に苛(saina)まれますが、波瀾万丈の中でも再び法隆寺の解体工事の続行が開始され、同時に、1959年から1970年にかけて明王院五重塔、法輪寺三重塔、薬師寺金堂、同西塔の再建も棟梁として陣頭指揮した他、学者たちとの論争にも、凛として一歩も引かなかった事から「法隆寺を守る鬼棟梁」と、畏敬を込めてそう呼ばれていました。

 特に、薬師寺金堂再建の詳細は、NHK(日本放送協会)の人気番組『プロジェクトX』で紹介され、筆者ならずとも画面に釘付けになった皆さまも多いことでしょう。 その折に、これまで途絶えていた「槍鉋」(Yari-Ganna)などの伝統道具類の復活も成し遂げた他、飛鳥時代から受け継がれて来た寺院建築技術を後世に伝えるなど、「最後の宮大工」と称されるに相応しい実績を残しています。

 先日の4月11日、三十回忌を迎えた名棟梁・西岡常一の法要の席に、令和6年の今日の宮大工として、ひとりの若い女性師匠の姿がありました。 令和元年(2019年)10月31日未明に正殿内部から発生した火災により重要な9施設の全てを焼失した沖縄「首里城」の再興に挑んでいる、その、若き師匠の瞳は、今や、日本全国に分布するに至った西岡常一を永遠の棟梁と仰ぐ若い師匠達と同様に、しっかりと未来を見据えるように輝いていました。

Tommy T. Ishiyama 

 

 

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